event review
 
"Do-Chū"リリース記念イベント
2010年7月24日 渋谷メアリー・ジェーン 
 対談:モモチョッキリ×航
 ライブ:航×植村昌弘
 後援:KOYA Records
 
伏谷佳代氏 イベント評
 土曜の夕刻は渋谷メアリー・ジェーンへ。
 ピアノ&ヴォーカルの航とドラムの植村昌弘のミニライヴ。
 セカンド・アルバム『Do-chū』の発売を記念して、ジャケットデザインを担当したイラストレーターのモモチョッキリのイラスト展示とトークも行うという趣旨。 航さんについてはうるさ型のレヴュアーの方も賞賛していたが、インスト中心に女の子チックな声が乗ったレトロ&カワイイ系のものだろう、と勝手に想像していた。 が、その予想は大きく裏切られるものだった。 まず、純粋にヴォーカリストとして一本立ちできるくらいに歌が巧いのである。 太いアルト、突き抜け感が抜群。 ライヴはアルバムに収められている曲を中心に進行。 1.窓 → 2.坂 → 3.Six Variations → 4.diaphanous veil → 5.独標 → 6.足跡 → 7.稜線、の順。当初、植村昌弘はスネアのみ使用、ということだったが、結局、シンバル、ハイハット、バスドラのほとんどフル装備。
 一曲目より、ほぼスティックとブラシを曲ごとに交互に使い分け。的確で理知的、無駄一切なしの理系ドラム。透明で過不足のない音。音を出そう、という指令系統が出たその瞬間に、末端にいたるまでの筋肉の力配分とか音量配分、音質コントロールなどが即座にプログラミングされるかのごとき明晰さ。シンバルとハイハットをスティックで叩き分けるときの、それぞれの音色の微妙な奏出。「独標」で見せた 柔軟性のあるバスドラも楽器を知り尽くした轟き。このドラマーの耳とセンスの良さを味わえた(それに何より、あの往年の早稲田っぽい雰囲気。各音楽サークルに5〜10年に一度くらいの頻度で現れる「頭よすぎる逸材」系。そのまま会社員になってもド級に出世しただろうに、賢すぎてそれを捨てた人)。航さんは場所柄もあってかシンセサイザーを演奏。アルペジオの部分でのリズムの翻りが運動性に満ちたとてもよい効果を生んでいる。ルバートと変拍子が予定不調和にたち現れるゆらゆら感が独特。何よりヴォーカルが鍵盤をほとんど無視しているかのような独立浮遊な動きなのがいい。前述したように芯がありよく伸びて高速度。北風のようだ。先回りして鍵盤が追いつくのを一瞬待ち構えたり、すれすれ後ろに立って追いかけたり、びゅんびゅんしている。その声と、落としどころを弁えたドラムとの微妙な音の重なりのズレも楽しかった。シンセもいいが、やっぱり生のピアノの音で聴いてみたいと思った(トークの部分で生ピアノを弾いたCDをちらっとかけたが、将来的にさらに個性が強まってどんどん変化しそうな音色)。
 
 休憩を挟んでの第二部はイラストレーターのモモチョッキリさんとのトーク。ミクシイを通じて知り合ったとか。バスキアと奈良美智に啓発されたというモモチョッキリさん。いかにも人前で話すのがあんまり好きではない、と見受けられる自然体が却って好印象。その作風にも、自分の好きなものを気負いなく細部まで描く、という息の長さが感じられた。